睡蓮の池のほとり

雪 辱

 突然、ぎゅうううん、という異様な音が聞こえたかと思うと、ホレムヘブの眼前に真っ赤に焼けた巨石が落下し、大地を揺るがせた。
 「な、何だこれは!」
 次々と落下して来る焼石は、初めのうちこそ不規則にあちこちの地面にめり込み、辺りの叢を燃え上がらせているに過ぎなかったが、それだけでも大変だった。馬が、興奮して一斉に暴れ出すのだ。
 灼熱の焼石は、丹念に弾着を観測しながら管制射撃されているらしく、次第に照準が修正されて散布界が狭まり、ホレムヘブが腰を据える本営を夾叉し始めた。本営が背にした潅木の林にも命中し、生木に火がついて白い煙を上げ始める。
 中には、脳天からこの焼石の直撃を受けてぐしゃりと焼き潰される兵も出た。
 「どこだ、敵はどこだ。」
 「それが、見当つきません。」
 どこから落ちてくるのか、ホレムヘブにも参謀らにも見当がつかない。
 灼熱の巨石はほぼ垂直に落下してくる。周囲を見渡しても、彼我の兵に充ち満ちた平原と、遥かに小さな丘が点々と見えるだけで、発射陣地らしいものは見当たらない。
 「物見っ、敵の…」
 ホレムヘブが口を開いた刹那、天幕がばさりと落ち、ホレムヘブと幕僚たちを包み込むように燃え上がった。焼石が命中したのだ。
 「これはかなわん。おい、戦車だ! 本営を進めるのだ。」
 ホレムヘブの本営は幕舎を捨て、王の馬印を掲げて転進を始めた。
 戦場は広大であった。後退しては前線との連絡を断たれる恐れがある。前進するしかない。
 眼前にも敵兵が充ち満ちているのだ。見当もつかない敵の陣地を捜索している余裕は、とてもなかった。
 ただ、「天から火が降る、神の業火か」と驚愕し、怯んでへたへたと座り込む兵すら現われた軍の恐慌を防ぎ、督励し続けるのがホレムヘブには精一杯であった。

 「だんちゃあく、いまっ。…命中! 敵本営、炎上します。」
 「よし、ホレムヘブは?」
 「判りませんが、馬印が移動します。」
 「惜しい。おい、次発急げ、目標、敵王の馬印っ。」
 「よぉい、てぇっ!」
 どっしりと動かない磐石の大地に据えられた巨大な弩に、傍らの炉から取り出されたばかりのこれまた巨大な焼石が装填され、青い煙を曳きながら宙に放たれた。
 
 レギルには、勝たねば生きて帰れない戦であった。もとより、勝手の解らない陸上の戦ではあったが、ここで敗けるなら、今度こそ本当に死ぬつもりであった。
 
 「おおい、降りて来い。早まるんじゃない。」
 「指令官。お願いです。ご再考を!」
 何でもない業務輸送だと思っていた航海をとんでもない結果で終え、母港に帰投した旗艦の艦上は、大騒ぎになっていた。
 旗艦といっても、航海中に変更された旗艦であった。海上で突然旗艦を変更するなど、尋常の措置ではない。
 レギルは、ウガリットに在った宗主国ヒッタイトの皇帝妃ユーリ・イシュタルを、目と鼻の先のイスケンデルンまで送り届けるという、大した手数ではないはずの任務をしくじってしまった。
 妃を迎えていた旗艦が遭難し、妃は海上で行方不明となったのである。
 遭難当夜、レギルは艦底付近で異音が生じたのを聞いた。イスケンデルンといえば、ヒッタイト本土にはほとんど唯一の軍港である。キッズワトナ艦隊も始終寄港していたから、レギルも、各艦長もそこへ至る航路は熟知している。たとえ暗夜であっても航法には自信があった。航路上には浅瀬などどこにもない。暗礁にでも触れたのだとすれば、艦位が狂っている。当直士官が狎れに甘えて天測でも怠っていたのではあるまいな、と疑ったレギルは露天甲板へ出てみた。
 そこでレギルは、信じられないものを見た。
 レギルが全幅の信頼を置いている、子供が病気だというので一時退艦を許したにも関らず、出港直前には知らぬ間に戻ってきて配置についているほど精勤の航海士アレクが、帆綱を切断した上、衛兵に躍りかかってその手にあった灯火を叩き落とし、甲板上に火災を発生させていたのである。
 レギルは、状況を把握した。アレクによる破壊工作だ。先ほどの異音は、艦底の排水弁が破壊された音だったのだ。
 アレクは、子供がどうした神官がどうしたと喚いていたが、今はそれどころではない。
 防水と消火、そして檣を伐り倒して傾斜復元。全てが最優先の応急作業だ。火災は辛うじて鎮火したものの、とても一度には手が回らない。針路を陸岸に向け、艦を浅瀬に着底させて沈没を免れようにも、なるべく陸岸を離れて、というヒッタイト皇帝の要望で、艦隊は敢えて沖合の航路を取っていたからとても間に合いそうにない。
 とにかく妃の安全確保だ。そう判断したレギルは、後続艦への遭難信号を命じたが、浸水で全ての灯火が消え、狼煙も上げられない。折からの月明下とはいえ、浸水した艦内から燧石を探し出し、一から発火させている余裕など、なかった。
 艦は、瞬く間に海面下に没した。轟沈であった。
 暗い海上を無我夢中で泳ぎ、辛うじて後続の四番艦に救い上げられたこと自体、過ちであったのだ。あの時、艦と運命を共にすべきであったのだ。
 あの時泳いだのは、決して命が惜しかったからではない。
 信頼していた部下による、突然の破壊工作。上官として監督不行届も甚だしい。
 それでも、艦は喪失しても皇帝妃だけは何が何でも救助せねばならない。
 その使命感だけが、レギルに生き延びることを命じたのだ。
 旗艦の火災を認めて接近してきた僚艦に向けて、必死で泳いだ。そして、手近の四番艦の甲板上に立ったレギルは、即座に落水者の捜索を命じた。

 それでも、混乱は収まらなかった。旗艦が撃沈されれば、軍令承行令により当然に次席指揮官が全艦隊の指揮を継承する。次席指揮官は先導艦の艦長であった。
 次席指揮官は、旗艦の轟沈を敵小艦艇による奇襲と判断、灯火管制を命じて対小艦艇戦を下令した。
 発光信号で伝達された次席指揮官の命令を了解した艦は、先導艦に倣って白帆が夜目に目立つのを警戒して縮帆、漕走に切り替えて見えざる敵影を追い求めていた。
 次席指揮官も、旗艦に乗っていたはずの皇帝妃を絶対に敵手に委ねてはならない、そしてもし妃が漂流しているなら救助しなければならない、と、索敵と落水者捜索を同時に命じ、夜目の利く乗組員を総動員して海上の見張に当たらせた。
 ところが三番艦の艦上に、陸兵を引率したヒッタイトの皇子が在った。
 この皇子が独自の命令を発し、艦の舷外に多数の灯火を点じて海面を照明し、溺者救助を始めたのである。
 奇襲を受けて旗艦が撃沈されたにも係わらず、こちらはまだ敵影さえ認めていないのだ。灯火など点じては一方的な攻撃の目標になる。その上、ただでさえ最低限の明度と指向性に留めている発光信号が、灯火に眩惑されて列艦から視認できなくなるではないか。次席指揮官は、必死で信号を発し続けて灯火管制を命じ続けた。
 皇子は皇子で皇帝妃を護衛する任務があるだろう。だからといって勝手も知らない海上で、思いつきの命令を出されては非常に困る。艦上での皇子は、単なる便乗者なのだ。
 その混乱の中、レギルが発した「指令官ハ四番艦ニアリ。旗艦遭難ハ単ナル事故ニシテ敵襲ニ非ズ、各艦全力デ溺者救助ニ当レ」の発光信号も、まともに隊内に伝わらなかった。四番艦の檣頂に掲げた新しい将旗も、旗りゅう信号も列艦から視認できるとは思えなかった。銅鑼による音響信号も、陣形を乱しててんでに洋上を動き回る艦には満足に届かなかった。
 初めから敵襲だと思い込み、その信号自体を偽信だと判断した艦もあった。偽信が発せられる以上、敵は確実にいる。ますますそう確信を深め、偽信の発信地点を求めて急行した。が、はじめから存在しない敵艦艇など捕捉はできない。味方討ちが発生しなかっただけでも僥倖であった。
 先導艦と三番艦、四番艦からそれぞれに発せられる命令に、慌てて探照灯を点じ、また慌てて消し、右往左往のうちに夜明を迎えてしまった艦もあった。
 結局、艦隊は三人の指揮官によるばらばらの指揮の下、夜明まで混乱を収拾することができず、妃を発見することもできなかった。
 翌日、艦隊は三々五々イスケンデルンに入港、投錨した。とりあえず便乗の陸兵を揚陸し、キッズワトナ海軍駐在官の協力を得て情報収集をしていると、ちょうど付近の海域を航行していた商船から、溺者を救助した、死体を収容したという情報が次々にもたらされたが、妃らしい人物については、死体が収容されたとも報じられはしなかったが、救助されたという報告も遂に届かなかった。行方不明だ。

 責任は、艦隊の指揮官たるレギルにある。海上での不祥事である。その上、直接の破壊行動を起こしたアレクは、明らかにレギルの監督下にあるのであった。
 アレクを収容したという報告もどこからもなかったが、キッズワトナの母港に帰投してみると、アレクが家族と共に国外へ逃亡した、という噂が広まっていた。
 任務も果たせず、艦を失い、破壊者を捕えることすら出来なかった。レギルは、もう居たたまれなかった。

 だからレギルは、こうして艦の檣によじ登り、剣を口に含んでまっ逆さまに飛び降りようとしているのだ
 
ところが、檣の下には部下の将兵が鈴なりになって並んでいる。
 「こらあっ、指令官の命令だ、どけっ!」
 今飛び降りると、部下達の、王陛下の兵らの上にわが身を降らせることになる。
 責任を取るのは指令官一人でいい。全ては指令官の不徳。そう心に決めたのだ。この期に及んでお国の大切な醜の御盾を巻き添えになど、できなかった。
 なのに、海兵たちは次々と檣の下に集まってくる。そして、みな好んで投身者の下敷きになろうとするかのように両手を広げ、檣頂をにらみ上げている。
 海面はどうか。旗艦の舷側は両舷とも、在泊全艦から急派された端艇がぎっしりと埋め尽くし、これまた檣上から身を躍らせるレギルを待ち構えている。
 レギルがただ一言、旗艦の艦長に「艦長、ちょっと出てくる。あと願います」と言い遺したのがいけなかった。艦長は、その一言にレギルの決意を感じ取ってしまったのだ。
 飛ぶに飛べないレギルが、この上はこの場でわが腹を掻き裁くべく決心した時、艦上に時ならぬ礼式曲が鳴り響いた。
 レギルが我に返ると、旗艦の艦尾に一隻の船が接舷しようとしている。その檣上、ちょうどレギルの目の高さに翩翻とはためいているのは、ほかならぬ国王旗であった。
 お召船の甲板から、大音声が聞こえる。兵部大臣の声であった。
 「こらあっ、レギルっ。勅命であるっ。貴官の自決、差し止める。勅命であるっ。」
 レギルも、後へは退けなかった。叫び返した。
 「小官、もはや生きてはおれませんっ。この度の不手際は全て小官の落度。武人の情、責を負わせてください!」
 「早まるなというのが、わからんのかあっ。本船には、恐れ多くも国王陛下おん自らご座乗である。勅命に刃向かうかっ、不忠者っ!」
 レギルは、はっとした。不忠者とまで言われては末代までの恥辱。しかもお召船の露天甲板には、確かに王陛下のご軍装が拝せられる。
 初めて決意を揺るがされたレギルは、よじ登ってきた三名の水兵に剣をもぎ取られ、腹に命綱を縛り着けられて、引きずり下ろされた。
 旗艦に移乗して来た国王は、甲板上にへたり込んだレギルの前に膝をつき、親しく言葉をかけた。
 「この度のこと、そなたが責を負うことは認めぬ、よいな。
 アレクとやらは国王の兵だ。責があるなら国王が負う。
 そなたは、わが海軍には欠くことできない海将なのだ。自決は罷りならぬ。しかと命じたぞ。」
 レギルは、責を負わせてはもらえなかった。
 
 その後、予てからヒッタイトと競り合っていたエジプトとの決戦が近づき、キッズワトナ軍でも大規模な動員が始まった。
 レギルは、先の事件後も変わらずキッズワトナ海軍東方艦隊指令官の職に在り、エジプトの海上に於ける兵站輸送を阻止する作戦行動の指揮を執っていたが、ヒッタイトとエジプトの決戦となれば、主戦場は陸上とならざるを得ない。海軍には、その決戦に奉仕する海上・港湾警備と船団護衛、通商破壊に任ずる補助的な役割をしか与えられないのは明白であった。
 レギルとて、それらの任務の重要さはよく理解していた。しかし、それでも何としても、決戦に参戦したかった。参戦して、ヒッタイト皇帝陛下の眼前で事件の恥を雪ぎたかった。
 行方不明になったヒッタイトの皇帝妃は、一旦はエジプトの将軍に身柄を拘束されながらも、何とか帰国を果たしたという。
 しかし、レギルの失策により長時間海上に漂流し、身体を冷やしてしまった妃は、ちょうど妊っていた子を失ったというのだ。
 この妃、異例の人事でヒッタイト近衛長官の職に在ったが、近衛長官なら発令一つで後任の都合はつくだろう。しかし、皇帝の後嗣ともなるべき子となると、皇帝唯一の妃以外に懐妊することはできない。それも、全くの神からの授かりものなのだ。
 わが王陛下が自決するなと仰せなら、承詔必謹だ。しかし小官も武人だ。戦場で討ち死にするなら王陛下にも申し訳が立つだろう。
 それについ先年、先王陛下がヒッタイトに背き、退位のやむなきに至ったわが国だ。キッズワトナ王国全体としても、少しでもヒッタイト皇帝陛下の目につく戦いを演じて、二心ない忠勤を認めてもらわなくてはならないではないか。

 レギルは、艦隊から要員を抽出して陸戦隊を編成、独自に出師準備を整え、死装束で参内して強引に国王の裁可を取り付けると、先に進発した陸軍部隊とは別に、海路ウガリットに進出した。

 キッズワトナ王国海軍東方艦隊特別陸戦隊は、艦隊指令官レギル直率の下、主戦場に想定されたビブロス北方、オロンテス河畔の平原の一角に布陣した。
 海戦でも敵艦に接舷して斬り込み、敵兵を制圧して艦を捕獲するか、破壊するのは常套戦法であるから、海兵らも格闘には自信を持っていた。
 とはいえ陸上の野戦となれば、狭い艦上での、剣だけを揮っての格闘とは全く勝手が違う。機動するにも頼りは自分の足、矢を防ぐ盾も自分で担いで歩くのだ。兵器も糧食も燃料もどっさりと積み込んだ艦ぐるみ進撃するのとは訳が違う。
 しかも、陸上での用兵や戦技についても、馬や戦車をはじめとする装備についても、陸戦隊には満足な準備などなかった。
 そこでレギルは、これら陸戦での不利を補うため、巨大な艦載兵器を陸揚げして擬装、総員必死で担いで陣地に運び、据え付けたのだ。充分な数量を見込んだ大石や薪も、機密保持のため野戦築城資材だと称し、もちろん糧食や清水も、ウガリット陸軍の輜重隊に委託、搬入した。そして加熱炉を築き、合戦準備を整えた。
 もとより艦載用の弩というものは、一旦艦上に備えたが最後、用に耐えなくなるまで取り外すことなどないから、持ち歩くようにはできていない。
 その分、この弩が狙うのは本来、虫けらのようないちいちの敵兵ではない。分厚い板に囲繞された大きな浮き城である。
 大きな石を黄色くなるまで炉で熱し、弩に装填して敵艦に射込む。そしてその艦体に、帆に火災を生ぜしめる。陸上で使うとはこれまで考えもしなかったが、きっと役には立つはずだ。
 反面、これだけ大きな弩や炉を地面に据え付けてしまうと、この陣地に拠る部隊は万一戦局に利なく、敵が迫って来ても退くことはできない。その場に踏みとどまって、最後の一兵まで戦い抜くしか途はない。
 しかしレギルは、そして生まれて初めて陸上での大会戦に臨む海兵たちは、天をも衝かんばかりの士気を漲らせていた。
 「この度の合戦、本艦は『浮き城』ならぬ『据え艦』である。帆もなければ櫓も漕げない。しかし本艦は、絶対不沈である!」
 味方の布陣からも思い切り突出した前方に構築した陣地とはいえ、想定戦場からは低い丘に隔てられ、乱杭と鹿砦、盾で窪地を囲んだだけの、草生す動けない軍艦であった。

 陸上に据え付けた弩は、扱い易かった。陣地は艦上と違って広さに余裕がある。その上、常に動揺する艦上での操作と違って、ゆらりとも揺るがない大地の上のことだ。艦載炉よりも二周りも大きく築いた炉の火も勢いよく燃え続け、次弾の準備に滞りはない。潮気のない乾いた風は穏やかで、偏流などないに等しく、丘の頂に伏せた兵の観測による間接照準も修正を要しない。勝手を知った海戦に比べれば、陸上での目標は小さ過ぎてちょっと狙いにくかったが、その点を補うために無駄な素弾は撃たず、わざわざ焼夷効果を期待できる焼玉として発射しているのだ。
 陣地自体も戦場から遮蔽されている上、陸兵には見たことすらない大弩だ。海上戦闘そのままの遠距離射撃など想像もつかず、それぞれ眼前の敵から目を離せないエジプト軍はなかなかこちらの発射位置を掴めない。
 それでも、エジプト王が幕舎の本営を捨ててしばらく後、機動中の敵の一隊が偶然丘を回り込んで来た。そして、見慣れない軍艦旗と巨大な弩に驚き、遮二無二突き掛かって来た。
 「左舷正横、敵っ。突っ込んでくるっ。」
 丘の上に伏せて指揮を執っていたレギルが応戦を下令するまでもなく、警戒隊が弓に火矢を番え、近接戦闘に備えて現地調達の礫を装填しておいた小弩を敵に向ける。鹿砦の内側に集積してある礫を直接投擲すべく振り上げ始めた兵もいたが、まもなくその敵を追摂して来たらしいヒッタイト陸軍の部隊が彼我の間に割り込んで来て、エジプト軍にぶつかって行った。
 「キッズワトナの海将どの。手前はヒッタイトの将軍フパシャ。カネシュ知事殿下の名代にござる。この敵は手前どもの獲物なれば、陸に上がった河童の衆はその大仰な投石器だけ弄っておられればよろしいぞ。では御免、ははは。」
 ヒッタイトの指揮官が、わざわざ丘の戦闘指揮所の真下に馬を寄せ、返り血で真っ赤にした顔で名乗りを上げ、呵呵大笑するやくるりと馬首を返して突撃して行った。
 「何をっ…」
 傍らの兵が思わずいきり立つのを制すると、レギルは苦笑しながら大きく手を上げ、砂塵を曳いて小さくなるフパシャの後姿に向かって、海軍式の手先信号で「了解」の意を示した。
 まあ、陸戦だからな。あいつらから見れば確かに素人だ、我々は。

 大海原の浮き城を紅蓮の炎で屠るべき大弩は、レギルの指揮の下、この大平原に咆哮し続けていた。
 左手遥かに見える疎林の中に、レギルは陽光を受けて白く光るものを垣間見た。エジプト軍の野戦補給所だ。レギルはすかさず距離を目測、燃え盛る伐株を炉の中から引きずり出させ、弩でこれに叩きつけた。
 白い布が掛けられた物資は、一たまりもなく炎上する。警備に当たっていたエジプト兵が、散り散りに退避して行く様さえ手に取るように認められる。
 ふふん、面白いほどよく燃える。レギルが頬を歪めて笑いを浮かべていると、その方角から旗を掲げた一隊がこちらへ馳せて来た。
 アルザワ陸軍の軍旗だ。あっ、あれはシーカどのではないか。アルザワの将軍だ。
 程なく丘の麓に到達したシーカは、馬を飛び降りて徒歩で丘を駆け上って来た。
 「おお、レギルどの。陸戦で軍艦旗を拝めるとは珍しい。よくもこんな大仰な兵器をはるばる搬入したものだ。
 しかしな、頼むから無闇に火を放つのは控えてくれぬか。敵を焼き討ちしてくれるのはよいが、敵の補給所に突然火災を起こされては、こちらまで危なくて占領確保できないではないか。」
 「そ、そうか、それは済まなかった。つい、いつもの癖でな。敵と見れば先制攻撃してしまう。」
 「先制攻撃と言っても、ここは海の上ではないのだ。周りじゅう、到る所が可燃物だらけなのだからな。この忙しいのに、こちらも消防活動までやってはおれん。今少し、穏やかにやってくれい。」
 「ううむ、それはもっともだ、気をつける。ご助言かたじけない、シーカどの。」
 「なんの。貴公の武運を祈るぞ。では。」
 なるほどな。やはり陸戦、勝手が違う。海上の敵艦に火を掛けるのなら、当の敵艦と舷々相摩するほど肉薄しているのでもない限り、こちらがその火を被ることはない。どうしても危なければそんな敵艦は放置して退避すればいい。そのうち敵艦が沈めば自然に火も消える。
 それに海戦では、操る艦そのものが一つの城だ。行動や戦闘に必要な需品の一切合財を搭載したまま、艦は自在に行動する。しかし陸戦ではそんな訳にはいかない。兵の糧食も、補充すべき兵器も、数え切れないほどいる馬のための秣も、水も、常に兵站に依存しなければ戦えない。だから目の前に敵の兵站物資があるなら鹵獲したいはずだ。現に炎上しているその地点を、味方が占領確保せねばならない状況もあるのだ。それで陸さんは、どこも火攻をやっていないのか。確かに、草原や森林でお互い火を掛け合っていては勝ち負けどころではなくなるだろう。
 やはり、パンはパン屋というものだ。幾日かかるか判らない大会戦、陸さんの邪魔にならぬよう、よく考えて撃とう。

 ホレムヘブは、直率する王軍を後衛に置いたまま、手勢を率いて一時前線に進出、戦況の直接視察を試みた。
 戦闘は、まさに両者四つに組んだ展開を見せていた。ほぼ互角の兵力を投入した両軍が、申し合わせたようにこの平原に兵を進め、申し合わせたようにそれぞれが巨大な鶴翼を展開して真正面から激突しているのである。
 戦車を駆るホレムヘブの頭上高く、ばしっ、という異様な物音がした。
 馬の背に落ち、跳ね返ってわが戦車に飛び込んできたものを手に取ったホレムヘブは、慄然とした。
 矢の行合だ。話には聞いたこともあるが、現実にこんなことが起きるのか。ホレムヘブの戦車に飛び込んだ矢は、鏃を吹き飛ばされ、矢幹が半ば近くまで裂けていた。そしてその裂け目には別の矢が、真正面から一直線に食い込んでいた。
 矢の嵐、槍の断崖。そんなものは初陣以来、数え切れないほど体験した。今日までそんな中を駆け抜け続けてきたホレムヘブでさえ、初めて見た激戦の証であった。
 
 「王よ。敵軍、押してきます。」

 天から降り注ぐ火の雨に追い立てられたかのようなホレムヘブは、とりあえずこの正体不明の火の雨の被害を最小限に食い止めるため、全軍をできるだけその射程内から退避させようと思った。とはいえ、その最大射程がどの程度か、ホレムヘブは知らなかった。
 それ以前に、敵がどんな兵器を使っているのか、どこからまた射掛けてくるのか、未だ見当がつかないのだ。
 敵の総大将ムルシリといえば、敵陣に背後から騎馬を突入させたり、三人も兵を乗せた戦車で突撃したりという奇策の主だと報告されている。大エジプトの王たる者、カシュガの土民集団やミタンニの若造とは違う。猪口才な奇策になど浮き足立ってはならない。
 その頃、エジプト軍前衛は右翼の指揮系統が混乱、陣形を乱して敵の集中攻撃を受けつつあった。
 その攻勢を受けて立つラムセス軍に、態勢を立て直させるため一旦後退の命令を発したが、なかなか退がろうとしない。退ってくれなくては、交代のネケブ軍を進出させる訳にもいかない。
 そのうち、敵の進撃が遅滞している旨の報告が届いた。
 この機を逃す手はない。ホレムヘブは、手許に呼び寄せたアンクティク将軍の部隊を直率すると、次いでラムセス軍をも直率すべく、前線に馬印を進めた。
 そして、親しくラムセスにその旨を達したが、全く従わない。押し問答を繰り返しているうちに、どういうわけかヒッタイトの主力が後退を始めたとの報告が入った。
 ホレムヘブは、すかさず攻勢を命じた。伝令が、各隊に散る。
 ところが、ラムセスがまた異議を挟んだ。ヒッタイト主力は、北東方面の平原地帯に向かって後退している、そこにはミタンニの戦車部隊が配してあるに違いないというのだ。
 その程度のことは、この男に指摘されるまでもなくホレムヘブも承知の上であった。戦車戦、けっこうだ。
 何しろ敵にとって背後は河なのだ。こちらとて戦車戦力は敵に劣ってはいないはずだから、とにかく急速に敵を河岸に追い詰め、周囲から包囲の網を絞り込めば敵は密集せざるを得なくなる。各科入り混じって密集してしまえば、戦車の機動力は発揮できなくなる。
 敵も包囲作戦を企図していることは明らかであったから、こちらは敵の部隊を分断して各個撃破するか、先制して逆包囲、殲滅するか、どちらかなのだ。
 その上で、敵が後退渡河を始めてくれればさらに有利だ。敵前での後退渡河となれば、敵は戦車を捨てざるを得ないだろう。
 敵の戦車部隊がミタンニの部隊だというラムセスの推測も当たっていた。物見の兵から、平原に配置された戦車部隊がミタンニの旗を翻している旨報告されたのである。
 しかしミタンニも、今は一旦滅亡したものがようやく再興した、ヒッタイトの傀儡政権に過ぎない。国の崩壊から僅かに二年、一旦崩壊した軍隊を再建するには、いくら何でも時間が足りない。その戦車部隊も、世界最強と謳われた往時の勢力などないはずだ。
 ホレムヘブは、自信を持って攻勢に出た。さしもの灼熱の焼石も、もう降って来なかった。

 低い丘を越えると、潅木を揺らして水の匂いの風が吹く。河のほとりの緑の平原だ。
 丘の頂に進出したホレムヘブは、早くもわが先陣と交戦に入っていた敵の戦車部隊を目にして、わが目を疑った。
 敵は、精気に満ちている。遥か後方にはミタンニ王マッティワザの馬印が視認された。一時はバビロニアに亡命し、ヒッタイト皇帝の策略に利用されて国王に祭り上げられたに過ぎないはずの情ない男が指揮する戦車部隊は、一糸の乱れも見せることなく、まるでセネトの駒がひとりでに動くようにいきいきと機動し、わが戦車の車列に割り込むと、無駄なく、そして取りこぼしなく次々と確実に撃破してゆく。
 信じられない。これが、再建間もない、そして再建後初めて実戦に臨む軍隊なのか。
 ホレムヘブの表情が、ようやく強張り始めた。
 頭数だけは揃っていても、所詮敵は諸国寄せ集め。日頃から王の統一指揮に慣れ、一体の軍として訓練されているエジプト軍とは格が違う。そう楽観していたが、なかなか手強い。
 「ラムセスに命令。敵の下流側に回り込み、敵の展開を牽制せよ。敵戦車部隊の機動を阻むのだ。」
 背後から、ラムセスの部隊が追及して来てはいた。しかし、いつの間にかラムセスの姿は消え、副将セシェムが采配を握っていた。が、兵の行動は明らかに統制を欠いていた。
 ホレムヘブは、ちっ、と舌を打った。
 まさか、戦死するような男でもあるまい。ラムセスの独断専行は毎度の事ではあった。とはいえ今日の場合、その独断専行は余りにも痛かった。
 あの男。わしが長年教え込んだ戦略がまだ理解できないのか。この状況にどう対応すべきか、そんな戦術判断もできないのか。
 ウガリットの占領確保を命じたのに、碌に戦いもしないで戻ってくる。馬でも駱駝でも、足りなければ要請あり次第何百頭でも補充してやったものを。そのおかげで今回、寄せ集めの敵に理想的な集結地を与えてしまったのだ。あの国の小ささなど、問題ではないのだ。
 その上、敵の近衛長官と一緒になって、王太后排斥にあれだけ混乱を引き起こし、収拾に余計な手間をかけさせおった。わしとて、王太后の専横を見逃していたわけではない。この急迫した時局に内政の混乱を起こしたくないから、敢えて対策を先延ばしにしていたのに。
 先ほどの命令無視とてそうだ。陣形が崩れかけたら速やかに新手と交替する。新手が疲れ始めたらまた一息入れた部隊が前線を交替する。そうして敵を休ませず、味方は常に新しい戦力を投入し続ける。後方にも戦力を配してあるのはそのためではないか。おまえの軍は一旦退り、同じく一旦退る王軍と合同して態勢を立て直せ、と言ったのだ。おまえ一人で戦っているのではないのだぞ!

 大方今とて、何か知らんが目の前の戦に熱くなって、軍を放り出してほっつき歩いているのだろう。
 まだまだ未熟だわい。あの若造も、それを買い被ったわしも。

 とりあえず左方に展開を命じたアンクティク軍も、行く手を敵に阻まれ、混戦に入っていた。濛々たる戦塵の中、アンクティクの旗印と入り乱れていたのはキッズワトナの旗印であった。
 ホレムヘブはその中に、キッズワトナの軍艦旗を視認した。大草原の戦場には場違いな、潮風に洗い晒された大きな旗であった。
 ぐ、軍艦旗… 陸将上がりのホレムヘブは、そんな旗を掲げた敵と戦った経験はなかった。

 石も矢も射尽くしたキッズワトナ海軍陸戦隊は、陣地に据えた弩が万一にも敵手に渡らないよう、漸く薪も尽き、火勢の衰えつつあった炉の火を掛けて処分した。次いで、苦労して構築した陸上の艦を捨てて陸軍部隊に合流、陸兵に混じって近接戦闘に移っていた。
 「全艦、わが航跡に続け。」
 どうしても、海上の用語がレギルの口をつく。しかし、兵は戸惑いもしなかった。一際大きな軍艦旗とレギルの将旗を押し立てて、間髪を入れずについて来る。
 レギルには、喜ぶべき誤算であった。
 レギルは、敵本営に向けてあらん限りの石を射尽くした後は、艦を焼き、目前に迫っているはずの敵軍に斬り込み、史上初めて陸上の戦野に翻した軍艦旗の下に総員玉砕することを覚悟、いや、予定していた。
 ところが、その前に敵陣が転進を始め、次第にわが艦から離れて行ってしまったのである。
 絶対に沈まない代わりに動けない。敗けても後退することはできない、と覚悟を決めていた陸上の軍艦は、勝ちに乗っての進撃もできなかった。最後には結局、やはり敵の背後の林や叢に標定し、火災を発生せしめて敵の行動を牽制することになった。
 随所に点々と発生した火災はエジプト王軍の機動を大幅に制限し、混乱を生ぜしめる効果をもたらした。そして結果として、王軍、そしてエジプト軍全体を前線に追い立てる役割を果たしたのである。
 幸いレギルが掛けた火は、荒野に点々と孤立する叢や疎林を各個に焼き尽くすと、それぞれ自然に鎮火していた。

 大会戦は、意外にも一日にして決着が着いた。キッズワトナの勝利であった。そしてヒッタイトと諸国同盟軍の勝利であった。エジプト王は、ヒッタイト軍の前に降伏を受け入れ、武装を解除したのである。
 キッズワトナ海軍陸戦隊が、その本営に対して命中弾を得ながらも討ち取り損じたエジプト王を捕え、皇帝に代わってその剣を受け取る大役を果たしたのが、先に自分が護衛し損じた皇帝妃ユーリ・イシュタルであったことを知らされ、レギルは初めて、大きく息をついた。
 捷報に接したレギルは、陸軍部隊と駆けつけて来たヒッタイト近衛隊の将軍に眼前の敵の武装解除を任せ、わが艦に戻った。兵に改めて整列をかけてみたが、海軍陸戦隊はその半数以上が姿を消していた。
 上陸以来掲げ続けてきた軍艦旗は、レギルが知らない間に旗手が交替し、旗には無数の鉤裂きができ、何本もの矢が突き刺さっていた。そして、誰のものとも知れない血で、あちこちがべったりとしみだらけになっていた。

 その後、ビブロスに於いてエジプトとヒッタイトとの講和会議が開かれた。
 この度親征した三君主、そして各国の将軍らが一堂に会する中、レギルもこの会議に出席を許された。そして議場では、遥々とナイルの河口沖に進出して海上封鎖に従事、航行する各国の商船を片っ端から臨検してエジプト軍の兵站を遮断したというアルザワ海軍の提督と並んで席を占めていた。
 堂々たる態度で会議の進行役を勤める、ヒッタイト史上初だという小柄な女性近衛長官の姿を見つめながら、レギルはほろ苦く、あの日のことを思い出していた。


決して戦闘を主題としている訳ではなかろう原典ですが、全編を通じて戦闘の場面がかなりの紙幅を占めています。
 そこで今回は、ちょっと派手な戦記風にしてみました。第
18巻・183ぺージ以降と、そして第23巻・57ページから第24巻・171ページの間、原典の中でも最も華々しい戦闘場面が連続する辺りに依拠しています。
 懐妊に伴い本国へ帰還するユーリを護送する任務を果たし得なかった指令官(現在の一般的な海軍用語としては「司令官」と称しますが、原典の表記に従いました)レギルも、その後ビブロス講和会議の席に列なっています(第24巻・163ページ)。
 敵と交戦して武運拙く敗れたのならともかく、この事件は他ならぬレギルの部下による破壊工作が原因、本来なら指令官の首などいくつ差し出しても足りない不祥事であったと思われます。
 その責任者が、栄光ある勝利者の一員として顔を並べているのですから、きっと何か、雪辱を果たして余りある殊勲を樹てたのだろう、と、こんな想像をしてみました。
 そしてこれに、オロンテス戦役の一方の総大将ホレムヘブが、軍人出身でありながら見るべき所のない采配に終始、遂に敗れたらしい原典の記述の裏側にどんな事情があったかという想像も絡めてあります。
 当時の海軍の編成や装備、活動等について、原典からは僅かにキッズワトナ海軍の様子が垣間見られる程度で、ほとんど読み取ることができません。主敵たるはずのエジプトについても、外国商船を傭船して陸兵を輸送している場面(第19巻・93ページ)以外、海上戦力の様子を窺える記述は出て来ないのです。
 レギル艦隊の当初の目的地であるイスケンデルン港についても、原典中には一言言及されているだけに過ぎませんが、ここを現代のイメージで「軍港」としたのにも根拠はありません。

 今回活躍したことにした「弩」という兵器は「いしゆみ」と読み、第11巻・11ページに名称だけ出てくる「投石器」という兵器になぞらえました。何分にも原典には名称しか登場しないので、これがどのような兵器であったかは判りません。射程としては通常の弓矢と大差なかった様子ですし、あるいは縄等を使って発生させた遠心力を利用する前投兵器であったかも知れませんが、ここでは発条の反発力を利用した比較的「近代的」な射出機を思い描き、近代の艦砲に相当する大型兵器を想像してみました。
 射出する大石を加熱しているのは、近代の榴弾が登場する以前、加熱した素弾を艦砲で発射、敵艦を焼くために使われた「焼玉」の発想なのですが、いずれにしても当時の現地にそういう兵器や戦法があったかどうか、あってもどの程度の威力を発揮したか、当筆者は知りません。また、原典に登場する艦隊には「軍艦旗」を掲げている様子も見られません。

 ただ、陸戦隊が予め集めておいた礫を打とうとする件、原典中、このような戦法が採られているのはハッティ族の居住区攻防戦(第11巻・6ページ)ぐらいのものですが、案外これも一般的な戦法であったのではないでしょうか。
 原典に現われるキッズワトナ海軍の艦船は、意外に高度な構造船のように見えますが兵装らしきものは防盾一枚すら認められません。もっとも、原典に登場したのは輸送のための船団ですし、航路も完全に味方の制海権下だったでしょうから、「艦隊」と名はついていても武装を持たない業務用艦艇または借上船ばかりで編成されていたのかも知れません。
 原典中ではこの艦隊について、「艦」「船」という言葉が混用されています。あるいは用途による船の構造など未分化で、同じ船でも海兵が乗り組めば(それこそ弩でも搭載すれば)軍艦、商業に使えば商船、という程度の区別であったかも知れません。近代以降ですらそのあたりの決定的な区別は難しいのですから、原典に描かれた当時は尚更だったでしょう。
 その上、レギル自身も海将でありながら「提督」とは呼ばれず、「将軍」と呼ばれています。あるいは当時、まだ船舶の航洋性が低く、海上での戦闘といっても陸戦の延長のようなもので、陸海軍の区別もまだ画然としたものではなかったのかも知れません。
 そうなると、このお話で想定した「海軍陸戦隊」など、珍しくもなかったでしょう。
 また、原典の描写を見る限り、このオロンテス戦役では両軍とも火攻戦術を実用した様子はありません。敢えてそれがムルシリやユーリの正面から離れた戦場では行われていたことにしたのですが、場違いな戦術思想を直接持ち込まれては敵ばかりか味方まで戸惑い、当座の役には立っても所詮は「奇策」に終わってしまう、そんな場面は我々も、日常経験することがあるのではないでしょうか。

 以上、原典から無理やり読み取った事情ですが、ちょっと筆が滑りすぎたかも知れません。いかがでしょうか。


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